奥さん、ここがサブカル地獄ですよ。

別れる前にお金を頂戴。

【映画感想】夜間もやってる保育園(2017)

奥さん、もう11月だよ。

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監督は『ただいま それぞれの居場所』(2010)、『石川文洋を旅する』(2014)などの大宮浩一。



認可されている夜間保育は全国に80ヶ所。

全国に25000ほどある保育園の0.3%。

2500人ほどの子ども達が保育されている。

ベビーホテルと呼ばれる無認可の夜間保育園が1749ヶ所。

保育されている子どもは33000人ほど。

(以上、芹沢俊介氏のパンフレット記述より)



僕は独身30代ワーキングプア男(笑)、今までに子どもを産んだことも、子どもを育てたこともない。

そんな僕が何故『夜間もやってる保育園』なのか。

最初に少しだけ。


夜の世界は少し美しい。

ニコラウス・ゲイハルター監督『眠れぬ夜の仕事図鑑』(2011)は、夜間も働くヨーロッパの人々を淡々と、しかし生々しく、そして美しく撮った僕の大好きな映画です。

しかし遠く離れたヨーロッパではなく、もちろんこの日本にも、夜働く人たちがいる。

各種飲食店従業員、ホストに風俗嬢、芸能関係者、タクシーやトラックの運転手、コンビニやファミレスのアルバイト、夜勤の医者・看護師・介護士、残業するサラリーマン・公務員etc…

そんな夜の世界に生きる人々に、僕はずっと前から興味がある。

すっかり昼型の生活に慣れてしまった僕も、20代の頃は完全夜型生活だった。

イベントスペースやクラブ仕事の休憩時間、外の空気を吸いに出ると、同じビルのキャバクラの女の子たちがお客さんをお見送りしていて、時折挨拶を交わした。

イベントをこなした後、共演者やスタッフと飯を食いに行くと同じく仕事を終えた人たち、早朝まで元気に働く飲食店の人たち。

始発電車の同じ車両には同業者、キャバ嬢や風俗嬢、一晩会社で過ごしたサラリーマン、朝陽に照らされる車内はとても静かだった。

僕にとっての“夜の世界”は現実そのものであり、昼の世界よりほんの少し美しいとずっと感じてきた。

だからこそ、この映画にも興味を感じたと言っていいと思う。



映画『夜間もやってる保育園』は夜間保育の現場を撮影することで、まず“夜の世界”の人々、その人生を浮かび上がらせる。

メインの舞台となる東京新宿区大久保「エイビイシイ保育園」園長の片野清美さん。

この映画は片野清美さんが大宮監督に送った一通の手紙から始まっているという。


その関連施設・学童保育「風の子クラブ」、さらに沖縄県那覇市「玉の子夜間保育園」、北海道帯広市「すいせい保育園」など各保育園で働く保育士さん達。

24時間体制の夜間保育園の姿を通じて、児童保育の大変さ、夜間保育ならではの苦労とやりがいなどが描かれる。

「場合によっては、おはようからおやすみまで一緒にいてあげられる」複雑そうながらも嬉しそうに話す保育士さんの姿が印象的だ。


そこに通う子どもたち、その保護者の人々。

厚労省勤めで退勤の遅いお母さん、ダブルワークで飲食店経営するタイ人のお父さん、飲食店経営の夫婦、バー経営のシングルマザー、などなど状況はそれぞれ。

望んで“夜の世界”に身をおく人、止むを得ず夜間保育を利用している人、悩みも苦労もまたそれぞれ。

寝たままの子どもを乗せ、時折ふらつきながらも自転車で夜の街を走っていくタイ人のお父さんが幸せそうだった。


茨城県石岡市「魚住農園」は「エイビイシイ保育園」と長年付き合いがあり、有機野菜を園に提供している。

新潟県新潟市「エンジェル児童療育教室」での研修では“多動”(ADHD)と呼ばれる子どもたちの療育について。

夜間保育を取り巻く様々な仕事、そして現代日本における保育の問題提起。


個人的に最もショッキングだったのは、ベビーホテルでの取材。

僕が生まれるより前の昭和の時代、ベビーホテルの劣悪な保育環境が社会問題になったことがあったという。

それを受けて昭和56年、認可を受けた夜間保育園が始まったのだと。

しかしこの記事の冒頭で転載した通り、現在も夜間保育園のほとんどが無認可のベビーホテルなんだそう。

新宿区のベビーホテル「たいよう保育園」の木村正章副園長は「昼夜働くシングルマザーが、子どもを預けられるのがベビーホテルしかない」と現状を語る。

「仕事何してるの?となってキャバ嬢だと答えると、保育園を落とされてしまう」とも。

さらに木村副園長は「一時保育で預かった子を、母親が迎えに来なかった」児童相談所に引き取られていった赤ちゃんを見送った経験を、辛そうに話していた。

なんとも腹立たしく、悲しい話だと僕は思った。

(誤解のないように書いておくと、映画で見る限りこの「たいよう保育園」は他の認可夜間保育園と環境的な違いは特に無く小綺麗で、劣悪だとは思わなかった。)


この様に夜間保育園に様々な形で関係する人々を、様々な角度で映画は描いていく。

悩みも苦労も喜びも笑いも、時には後悔、時には再会、悲喜交々だ。

しかし園長も保護者も保育士さんたちも他の関係者も、皆んなが口にする言葉がある。


「子どものため」であると。


現代日本では、未だに「子どもと少しでも長くいなければダメ」「子どもを夜預けたままなんて親失格だ」という考えが蔓延している。

そんな悩みを抱えていたお母さんは、保育士さんの「時間じゃなくて質だよ」との言葉に救われたと話します。

そして「エイビイシイ保育園」では、夜勤で疲れたお母さんお父さんに「迎えに来るのはちょっと寝てからでいいよ」と伝える場面があります。

僕なんか知りもしませんでしたが、仕事を終えたらすぐに迎えに来いと、時間などに厳しい保育園も多いそうで……。

しかしお母さんお父さんが元気な方が、子どもだって嬉しい。

1人で悩み苦しむお母さんに「お母さんがんばってるね!」と保育士さんたちは声をかける。

保護者のためではなく子どものために、お父さんお母さんと園との温かなコミュニケーションが映し撮られているのです。


お父さんお母さんが子どものことが大好きな気持ち、子どもたちがお父さんお母さんが大好きな気持ち、そしてそこに寄り添う保育士さんら園スタッフの気持ち。

夜間に限らず保育で最も大切なものが、この映画には溢れ返っています。

何しろ子どもたちの可愛いこと(笑)。

映画を見始めた最初の僕は「大変な仕事だ…」「小さな怪獣がこんなに…」と慄いて(笑)いました。

しかしこの映画は辛く悩ましい夜間保育の現場を偏ることなく撮影し、“愛情”と“未来”を僕にも伝えてくれました。

僕らの“未来”が描かれた、この映画のラストを是非劇場で確かめて頂けたらと思います。




しかし今年は面白いドキュメント映画が本当に多いですね。

僕が観た今池シネマテークさんでも、まだまだ面白そうなドキュメンタリーが年末まで上映予定みたいです。

次もドキュメントを取り上げるかは分かりませんが、とりあえず3ヶ月も空かないように

気をつけます(笑)。





奥さん、映画では井塔由梨さんが歌ってるよ!

見上げてごらん夜の星を

見上げてごらん夜の星を