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奥さん、ここがサブカル地獄ですよ。

別れる前にお金を頂戴。

【映画感想】人類遺産(2016)

廃墟だよ、奥さん。

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原題:HOMO SAPIENS

監督は『いのちの食べかた』(2005)、『眠れぬ夜の仕事図鑑』(2011)のニコラウス・ゲイハルター。

世界70カ所以上の廃墟を固定カメラで捉え、ナレーション無しBGM無し字幕無し登場人物無し、映像と音のみで構成され、人類が滅んだ後の世界を描くドキュメンタリー。


というわけでございまして。

しばらく間が空いてしまいました。

特に理由はないんですけど、本職の書き物がそれなりにあったのと、新作・旧作問わず観た映画がなかなか記事書くのが難しそうだったりしまして。

例えば精神に深刻なダメージを受けたりとか……『ブルーバレンタイン』てめえの事だよ!!!


さて、ニコラウス・ゲイハルター監督作は『眠れぬ夜の仕事図鑑』が大好きで。

しかも今作は廃墟を撮ったって聞いて、サブカルクソ野郎的にはこれは外せないだろうと。

廃墟とか好きなんですよ。

ちなみに、『いのちの食べかた』は個人的にはイマイチで。

あの、食育としてはどうも恣意的に選ばれた大量生産の現場の撮り方がとても欺瞞だよなあって。

あと、単純に絵面が似たり寄ったりでつまらなかったです(笑)。



そんな『人類遺産』ですが。

結論から申しますと、僕はこの映画が大好きでしてね。

廃墟って、使われなくなってしまった建造物あるいは建造物群のことを指すと思うんですけど。

要するに捨てられてしまった、いらなくなってしまったものなんですね。

近年、特に日本では本作にも登場する軍艦島世界遺産に登録されたこともあり、廃墟を巡る状況もほんの少し変わってきた気もします。

しかしそんな保護を受けられるのは稀なケースで、基本的に廃墟はいつ無くなってもおかしくないものなんです。

昭和の建築物全般が耐震強度の問題や再開発で姿を消す中、廃墟はそもそも使われていない建物なので、消える時はあっという間です。

現に本作に登場する世界中の廃墟のうち、いくつかは撮影後に取り壊されてしまっているそうですし、撮影中に情報を元に現場に行ってみるともう既に無かった(廃墟好きあるある)……なんて切ない状況もあったようです。

だからこそ、世界中の廃墟をこんなにも美しい映像で残してくれた、もうそれだけでこの映画には価値があると思うわけであります。


そして今作は、ゲイハルター監督の前2作(日本公開分)と決定的に違う部分があります。

人物が一切登場せずかつ人間や機械が現場で出す音を一切排除し、代わりに音響コーディネーターにより鳥の鳴き声や虫の羽音が加えられた音響作り。

さらに映像にも照明や加工を足して、廃墟自体がより良く見えるようにされているそうです。

監督本人が「自分はこの映画をドキュメンタリーだとは思っていない」と語る通り、今作は“ありのままの姿”を撮り続けてきた過去作に比べて少しフィクション度が高まっています(勿論ありのままを撮っているかの様に感じられる程度にはナチュラルな作り込みですが)。


今作のテーマを分かりやすく示すものとして「そうして、人類(ホモ・サピエンス)の時代は終わりました。」との煽りがHPなどに記載されています。

ゲイハルター監督は70カ所以上の廃墟を撮ることで人類が滅びた後の世界を表現しており、その世界観を構築するための映像・音響の作り込みなんですね。

僕がこの映画を大好きになった理由は、まさにそこの部分です。

鑑賞中の僕が逐一思っていた事があります。


この世界は人類がいないだけでこんなに美しいのか。


いかにも厭世的な物言いに感じるかもしれませんが(笑)。

僕は観光地なんかに遊びに行っても「ああ……人が多い……人がいない状態でここに来たい……」とよく思ってて。

建築であれ空間であれ、静謐な中でその存在だけを味わいたいのです。

そういう意味でこの映画はまさに夢の様な体験だったと言えるかもしれません。

徹底的に人間の存在が排除された世界は、それが人間の手によって作り出された建築であるにも関わらず、こんなにも美しい。

その美しさに改めて心を打たれました。


この映画の原題“HOMO SAPIENS”は人類を指す学名です。

人類が滅んだ世界を描いた映画に、そのものズバリ人類とタイトルされているのです。

監督のインタビューによれば、解釈は委ねるとしながらも、過去や未来だけでなく現在に対する批判性も、この映画に内包させたかった主旨の発言をしています。

確かに打ち捨てられた建築から過去の営み、滅びた先の未来、そしてそんな過去や未来と繋がっている僕たちの現在が感じられる、素晴らしいタイトルです。

受け手の人生観によって、この映画は過去にも未来にも飛躍し、かつ現在に留まらせる事もできるのです。


そして僕が観た『人類遺産』は素晴らしい未来でした。

人間や機械による喧騒が消え、春夏秋冬が過ぎ行く中、ただあるがままに存在している無数の遺産。

それは人間によって作られた存在が意味を脱ぎ捨てて自然と同質の美しさを獲得した姿です。

不道徳な想像ですが、もしも何らかの事態に自分以外の人類が滅亡したとしたら……。

無数の籠が吊られた炭鉱、神の消えた教会、浜辺のローラーコースター、山頂の巨大ホールまで、僕は喜んで『人類遺産』を闊歩し始めるでしょう。

人類の消えた楽園、その素晴らしさを噛み締めながら。



ドキュメンタリー好きにも、SF好きにもオススメです。

是非ご覧くださいませ。




奥さん、『眠れぬ夜の仕事図鑑』もオススメですぜ。