奥さん、ここがサブカル地獄ですよ。

別れる前にお金を頂戴。

【映画感想】ラ・ラ・ランド(2016)

奥さん、俺的には作品賞だよ!

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原題:LA LA LAND

監督・脚本は『セッション』(2014)のデイミアン・チャゼル。

主演は『ドライヴ』(2011)『ナイスガイズ!』(2016)などのライアン・ゴズリングと、『ゾンビランド』(2009)『マジック・イン・ムーンライト』(2014)などのエマ・ストーン


夢を追う人々が集まる街・ロスアンゼルスを舞台に、愛するジャズの店を開こうとするジャズピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と若き女優志望のミア(エマ・ストーン)が出会い、反発しながらも恋に落ち、互いの夢のために突き進んで行く……といったあらすじ。







注意!

今回の記事にはいつも通りネタバレが含まれている。まだ映画を観ていない者は絶対に見てはならない。いいか。今すぐこのブログを閉じて部屋から出て玄関で靴を履いて車に乗り込み劇場に行き「ラ・ラ・ランドを1枚」と受付に言うんだ。そして観終わった後に、気が向いたら戻ってきてくれ。






ラ・ラ・ランドを観ろ!以上!解散!!






で済ませても良いんですけど……(笑)

こんなに素晴らしい映画を前に、何を語れば良いのでございましょうか。


というわけで、2017年最初にして最大の話題作、ラ・ラ・ランド。

ゴールデングローブ賞で7部門、英国アカデミー賞で5部門、ニューヨーク映画批評家協会作品賞、トロント国際映画祭観客賞などなど受賞、他多数ノミネート。

先日行われた第89回アカデミー賞では、監督賞、主演女優賞、主題歌賞、作曲賞、美術賞、撮影賞の最多6部門を受賞。

さらに前代未聞の作品賞誤発表という、映画本編のある展開を思い起こさせる珍事に巻き込まれた今作。

(シャマラン監督が筋書きを書いたらしいので、まあ仕方ない笑)

まさしく“夢 を み て い た”ってところがまたゾクッとしてしまう。

現実歪んだ?みたいなね。


基本的にこのブログは、いろんな人達に「こんな作品があるんだよ〜暇な時にでも観てみるといいよ〜」とか「この作品覚えてる〜?久しぶりに観てみると面白いよ〜」みたいなスタンスで書いてるんですよ。

でもこのラ・ラ・ランドについては、とにかく僕個人の感情にザックリと刺さってしまって。

そんな軽い感じでオススメ出来ないというか、僕に刺さってしまったポイントを観るより先に教えたら本末転倒というか。

予告を見て「あ、だいたいこんな感じの映画なのね〜ロマンティックで楽しいミュージカル映画〜ステキ〜」って思って劇場に行くとエラい目に遭うという(笑)。

だからもう本当に、そんな感じで、早く皆んなにエラい目に遭って欲しいんだよね。

そういう意味で本当にネタバレは避けた方が良いタイプの映画で。


ちなみに僕はミュージカル映画はほとんど観てないので、オマージュとかそういうポイントについてはパンフレットに書いてありますし、他のもっと詳しい方のブログとかツイートを参考にしてね。

そこを知ってるとさらに味わいが出てくるかも知れないから。


ただ僕はミュージカル映画オマージュは一つも分からなかったし、分からなくっても最高だったので、その辺は気にせずにご覧になると良いとも思うんですけどね。


とここまで書いて、まだ読んでるのはもう観た人だけになりましたかね?(笑)


まず何と言っても音楽です。

アカデミー主題歌賞を受賞した『City of Stars』は勿論、冒頭高速道路のシーンで観客の心を掴む『Another Day of Sun』なんて、楽曲単体でも涙腺を刺激する名スコア。

第二幕の終わりでエマ・ストーンが素晴らしい演技を見せる『Audition (The Fools Who Dream)』なんて、映画の主題を天才的とも思える詞で表現しきっている。

エンドクレジットで流れる『City of Stars (Humming)』は味わい深く、エンドクレジットでまで泣かせに来るなんて……。

他にもエマがルームメイト達と楽しげに歌いだす『Someone In The Crowd』(予告でも流れてましたね)も大好きだし、今作のサウンドトラック盤は2017年必聴の1枚だろう。


撮影賞を受賞しただけあって、ミュージカルシーンの長回しも本当に効果的だ。

鑑賞後にメイキングを見ると「あれマジで一発で撮ってたの!?」と度肝を抜かれる。

派手なシーンだけではなく、前述の『Audition (The Fools Who Dream)』のシーンなど、ある種類型的な静のシーンをあそこまでの見せ場に仕立て上げたのは、エマ・ストーンの演技力だけではないだろう(彼女の演技がウットリするほど素晴らしいのは大前提として、だけど)。


そう、主演二人の演技も冴え渡っていた。

美しい音楽(振り付けも含む)も、効果的な撮影も、エマ・ストーンライアン・ゴズリングの愛おしくなるほどの演技力無しでは全く意味が無かっただろう。

長回しによるミュージカルシーンの掛け合いもさることながら、ライアン・ゴズリングはピアノの猛練習をしてこだわりの強いジャズピアニストになりきっていたし(ジョン・レジェンドの言う通り嫉妬するほどの才能だ)、エマ・ストーンのほんのちょっとした表情の演技こそがこの恋人達の人生を本物だと思わせてくれた。


演技力、さらに音楽や撮影のような一つずつの要素を抜き出して賞賛し出すとキリがない、本当にため息が出るような素晴らしい映画で。

ラ・ラ・ランドを観終わった後、僕はツイッターにこの映画を「アメリカ映画の悦びと、ヨーロッパ映画の味わい深さ」と書いた。

ここまでは個の要素、主にこの映画の“悦び”について書いたわけだけれど、最後にこの映画の“味わい深さ”について書きたい。

(ここから本格的にネタバレになる。)


最初に書いた通り、この映画は宣伝で伝わってくるような甘くロマンティックで楽しいだけの映画では、無い。

劇中出会って心を通わせるも、一年ほどで袂を分かったセバスチャンとミア、そこから時勢は5年後へと飛ぶ。

そこには夢を叶えたミアと、彼女と幸せを共にする家族が登場する。

子どもとじゃれ合うミアの隣にいる伴侶は、セバスチャンでは無い。

冒頭のミュージカルシーン(セバスチャンとミアが出会うシーンだ)で登場した高速道路の渋滞に巻き込まれ、ミアと夫は予定を変更して街で食事をすることにする。

手を組んで歩く二人は、街中で音楽の漏れ聞こえてくるレストランへと入っていく。

するとそこには、恋人時代にミアがセバスチャンに提案した店名とデザインそのままの看板が。

まさかと思いながらも夫に促され店内の席につくミアの前に、演奏していたジャズバンドのメンバーをステージ上で紹介するセバスチャンが現れる。

彼女と別れたセバスチャンもまた、自分のジャズの店を持つという夢を叶えていたのだ。

ミアの視線に気付いたセバスチャンは、おずおずとピアノの前に座り、思い出の曲を弾き始める……。


ここから最後のミュージカルパートへと映画は移行する。

ミアがセバスチャンに声をかけたシーンから始まるそのパートは、映画冒頭から観てきた現実とは少し違っている。

声をかけたミアを無視して立ち去っていたセバスチャンは、彼女を抱きしめてキスをする。

ガラガラで落ち込んだミアの単独舞台は大入り満員、そこにはセバスチャンの姿もある。

袂を分かつキッカケとなったバンドへの参加をセバスチャンは見送り、成功していくミアと幸せな日々を送る。

ありとあらゆるシーンが“こうであって欲しかった”シーンへと書き換えられていく。

しかし、ミュージカルパートの“夢”は終わり、現実へと観客は立ち返る。

セバスチャンは1人でピアノを弾き終え、ミアは夫と共に店を出ようとする。

ミアは立ち止まり、ステージ上のセバスチャンを見やる。

最後に視線を交わした二人は、ほんの少し微笑み合って、この映画は終わりを迎える。


おいいいいいいいいいいいいい!!

なんでだよおおおおおおおおお!!

三幕が始まると徐々にミアとセバスチャンは恋人同士には戻らなかった(戻れなかった)ことが分かってきて、もうその時点で嘘でしょ!?この後二人はまた結ばれるんだよね!?と目の前の現実が受け入れられなくなるわけだ(笑)。

その後始まるミュージカルパートは、そんな観客の心に応えるように美しく楽しくロマンティックそのもの。

しかしそんな“夢”も終わり、映画自体も終わってしまう、なんとも切ない終幕となる。


最初観た時僕は、この“夢”はセバスチャンのものだと思った。

自分が男性だからセバスチャン側に感情移入していたためもあるだろうし、夢を叶えたものの1人でいるセバスチャンが知らない誰かと幸せになったミアと再会したことで、しまい込んでいた、手に入れることのできなかったもう一つの“夢”が溢れてしまう……なんて哀しいんだ。


しかしネットの評で見かけた中に違う解釈があった。

“夢”はミアの“夢”なのだ、と。

夢を叶え、夫と子どもに囲まれて幸せそうに過ごしているミアがセバスチャンと再会したことにより、こうであって欲しかった“夢”を見るシーンなのだと。

そう考えると確かに“夢”の中で、途中から現実の夫との思い出が、まんまセバスチャンに置き換わっていることにも納得できるし、出会いのシーンが書き換えられていることも合点が行く(彼女はあの時すでに恋していたのかも知れない)。

でもそうだとしたらソレはソレで、なんて切ないんだろう。

夢を叶え幸せを手にしたと、少なくともそう見える彼女の本当の願い、本当の“夢”は……書いているだけで泣けてきてしまう。


キャッチコピーの“夢を見ていた”も、映画を観終わってみると全く違う味わいがある。

そう、この映画は“夢”をめぐる物語だ。

現在進行形で夢を見ている人。

かつて、夢を見ていた人。

個人的には、今、夢に迷ったり夢に傷付いている人にこの映画を観て欲しい。

僕はこの映画に勇気を貰った。

かつて夢を分かち合った恋人と再会した時、微笑み合える自分でいたいと思った。

描いた二人の幸せは手に入らなかったけれど、それでも互いに先に進んでいく、そんな姿に憧れを感じた。

描いた“夢”と手に入れた“夢”は違うものかも知れない。

それでも、寂しくてもそれを肯定する微笑みだったと思う。

切なくても、この映画は“味わい深く”、しっかりとハッピーエンドだ。


最後の最後にさらにもう一つ書き加えておくなら、“夢”はもしかしたら“夢”ではないのかも知れない。

パンフレット掲載の町山智浩氏のコラムで引用されるインタビューによると「ただの夢じゃない」と監督は言うのだ。

監督は1927年の映画『第七天国』を例に挙げ、「本当に深い感情は時空も現実も物理法則も超える」ミュージカルも「気持ちが心にあふれた時、天国から90人編成のオーケストラが降りてきて演奏してくれるんだ。」と語る。

そう考えるならあの“夢”は現実だ。

微笑み合って別れた二人も、一緒に幸せになった二人も、どちらも現実なんだろう。



デイミアン・チャゼル、なんて映画を作ったんだ。



奥さん、聴いて。

ラ・ラ・ランド-オリジナル・サウンドトラック

ラ・ラ・ランド-オリジナル・サウンドトラック

  • アーティスト: サントラ,ジャスティン・ハーウィッツ feat.エマ・ストーン,ジャスティン・ポール,ジャスティン・ハーウィッツ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2017/02/17
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