【映画感想】マグニフィセント・セブン(2016)
監督は『エンド・オブ・ホワイトハウス』『イコライザー』のアントワーン・フークア。
黒澤明監督『七人の侍』(1954)を原案に制作された西部劇『荒野の七人(原題:The Magnificent Seven)』(1960)のリメイク(ややこしい)。
まあ黒澤明作品観てないんで、そこはさらーっと流しますが。
しかしこの西部劇という厄介な代物。
正直僕、西部劇あんまりちゃんと観てないんですよ。
覚えてる限りで
荒野の用心棒(1964):セルジオ・レオーネ監督。マカロニ・ウェスタンの代表作。
エル・トポ(1970):アレサンドロ・ホドロフスキー監督。カルト映画の代名詞。
スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ(2007):三池崇史監督。察して。
……まともな西部劇が無えよ!!!
思い返してみると、現代劇の『ラストスタンド』(2013)が実は一番正調西部劇だよな〜とか。
あとOVA『機動戦士SDガンダム パパルの暁 第103話スギナムの花嫁』はかなり西部劇ですね。やっぱり変わり種かよ!!!
ってわけで、流石に文脈分からなすぎでまずいと思い、オリジナル『荒野の七人』はDVDで観て予習しましたです。
ちなみに『荒野の七人』めっちゃ面白かった。
さて『マグニフィセント・セブン』。
金鉱目当てに地上げを図り、村を蹂躙し悪逆の限りを尽くすボーグ社のバーソロミュー・ボーグ(クソ野郎)。
目の前で旦那を殺されたエマ・カレンは、街でガンマンを探していたところ、凄腕の賞金稼ぎサム・チザムと出会い彼に村を救ってくれるよう頼む。
話しを聞いたサム・チザムは村を救うため腕きき達を集め打倒ボーグに乗り出すのだった……!!というのがあらすじ。
オリジナルだと野盗であった悪役は成金のクソ野郎(笑)に変わり、そんなクソ野郎と用心棒の一味を、正義に燃える7人がMINAGOROSHI!
なんとも西部劇らしい、勧善懲悪待ってました!の素晴らしいプロットだ。
しかし今作の白眉は、集結する7人の多様なキャラクター。
ざっと紹介してみよう。
サム・チザム
デンゼル・ワシントン、個人的には『ボーン・コレクター』の人。
7つの州の委任執行官で、賞金稼ぎの黒人。
オリジナルのクリスに相当するリーダー格のキャラクターで、元北軍将校。
ファラデー
演ずるは僕らのクリス・プラット。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『ジュラシックワールド』の人。
元のヴィンに相当する軽妙なキャラクターで、2丁拳銃がかっこいいぜ!
アイルランド系の設定はベルナルド・オライリーから受け継いでいるのかも。
ヴァスケス
マヌエル・ガルシア=ルルフォ。
賞金首のメキシコ人。こちらも人種の設定は元のベルナルド・オライリーから(オライリーはアイルランド人とメキシコ人の混血)受け継いでいるのかしらね。
グッドナイト・ロビショー
イーサン・ホーク演ずるフランス系白人の賞金稼ぎ。
元南軍兵士で狙撃の達人、通称“死の天使”。何それかっこいい!!
ビリーの相棒で、詩的な表現を交えて話す。何それかっこいい!!
オリジナルのハリーとリーを整理して掛け合わせたようなキャラクター。
ビリー
オリジナルのブリットに相当する。
東洋系ガンマンで凄腕ナイフ使い!!
ロビショーとコンビを組み、トラウマに悩まされる彼をサポート!!
お前らだけキャラが立ちすぎだよ!!
ホーン
『ラン・オールナイト』『ジュラシックワールド』のヴィンセント・ドノフリオ。
巨漢のマウンテンマンで、聖書を諳んじ斧やナイフでの近接戦もお手の物。
クロウ族300人を仕留めたって凄えな。
本作オリジナルのキャラクター。
ハーベスト
演ずるはただいま全米公開中の『Wind River』にも出演しているマーティン・センズメアー。
放浪のネイティヴ・アメリカンで、弓矢や手斧を用いる戦士。
こちらも本作オリジナルキャラクター。
この映画は“多様性”をテーマにしているとあちこちで多くの皆さんがおっしゃられていますが、まさしくその通り。
七人のキャラクターを見てもらえれば一目瞭然、元に比べて圧倒的に多様な人種、そして当時のアメリカにおける彼らの多様な関係性を描いている。
そしてそれこそがアメリカの理想的“多様性”であり、2016〜2017年、トランプ大統領とレイシズム蔓延る現在のアメリカだからこそ、描くに足るテーマだと心から思う。
元北軍のチザムと元南軍のロビショーの過去。
賞金首のヴァスケスをスカウトするチザムとのやり取り。
それに呼応するかつて追う側追われる側であったロビショーとビリーの現在。
ファラデーとヴァスケスの軽口の応酬。
敬虔なホーンの仲間たちへのセリフ。
そのホーンとハーベストの敵側インディアンと対する一連のシーン。
アイデンティティの違いを越え絆を結び、命を賭して巨悪に立ち向かう。
金に物を言わせ人々を虐げる成金クソ野郎(現アメリカにおいて誰のことかは言わずもがな)をアメリカ的“多様性”の絆が打ち倒す!!
まさしく西部劇!まさしくアメリカ映画!!
(しかし、春に『ズートピア』秋に『マグニフィセント・セブン』が公開された2016年のアメリカが、どれだけ理想と現実の狭間で揺れていたのかがわかる気がするね……。)
(ちなみに前述した『ラストスタンド』もオーストリアからの移民であるシュワを始めとした多様なメンバーで脱獄したギャングのボスをやっつけるというあらすじ、現代西部劇はかつてのアメリカの理想を描くもってこいのジャンルなのかなーとか思ったり。)
話しを『マグニフィセント・セブン』に戻そうそうしよう。
登場人物の豊かさとテーマ性の増大、オリジナルの要素の整理も見事で、脚本もスッキリしたと思える今作。
しかし少し残念だったのは、オリジナルにあったオライリーと子供たちのサブストーリーと、チコと村娘の恋愛要素がバッサリ無くなってること。
ただオライリーのサブストーリーを描写してしまうと、軸になる“多様性”のテーマがちょっとボヤけるから、まあ止むなしかなあという気はする。
しかし恋愛要素の方は入れても良かったんじゃないかなあと思うのだ。
理由としては、実は今作の難点にテンポが良すぎることがあると思う。
オリジナルだと中盤丹念に描かれていた、村人の訓練シーンとそれに関わる七人のやり取りが、今作では割とあっさりしている。
村人たちとのやり取りによって七人のバックボーンや問題、もっと言えば時間的な経過を描く大事なシークエンスだと思うのだが。
村人たちの成長も、サムに集められただけのメンバーが認め合うに至る流れも、あまり描かれることも無いまま、戦闘シーンに突入していってしまう印象だ。
(その代わり鉱山に残っていた手下たちを一掃して労働者を解放し、ダイナマイトを手に入れるちょっとした見せ場があるんだけどね。)
少し思い出したのは昨年公開の『ローグ・ワン/スターウォーズストーリー』において、ローグ中隊の面々が終盤あそこまで作戦に入れ込む理由が分かりにくいといった意見があった事だ。
やはりローグ・ワンでもテンポを重視した結果、キャラクター達のやり取りを充分に描ききれていなかったような印象はあった。
その結果、クライマックスで自己犠牲を払う中隊の面々への感情移入が進まず、少し物足りなく感じてしまった人がそれなりにいたのだろう。
正直僕は今作でも同じ問題が起こってしまっていると思うのだけど、これまた昨今の風潮なんだろうか。
というわけで良いも悪いも併せて書いてみた。
総合的にはとても好きな映画なので、是非とも皆さんご覧いただきたい。
どうやら劇場にはあまり人が入っていないようで……しかし上に書いた通り、2016〜2017年の現在にこそ観るべきテーマがしっかりと描かれている映画なんです。
ごく個人的にはロビショーとビリーの2人だけでも大いに観る価値がある(笑)映画なので、何卒よろしく。
最後に。
奥さん、荒野の七人のテーマはテレビでも使い尽くされてるのに全く色あせない名スコアで、しかも日本版のサントラにはボーナスで収録されてるんですよ。
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