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奥さん、ここがサブカル地獄ですよ。

別れる前にお金を頂戴。

【映画感想】人類遺産(2016)

廃墟だよ、奥さん。

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原題:HOMO SAPIENS

監督は『いのちの食べかた』(2005)、『眠れぬ夜の仕事図鑑』(2011)のニコラウス・ゲイハルター。

世界70カ所以上の廃墟を固定カメラで捉え、ナレーション無しBGM無し字幕無し登場人物無し、映像と音のみで構成され、人類が滅んだ後の世界を描くドキュメンタリー。


というわけでございまして。

しばらく間が空いてしまいました。

特に理由はないんですけど、本職の書き物がそれなりにあったのと、新作・旧作問わず観た映画がなかなか記事書くのが難しそうだったりしまして。

例えば精神に深刻なダメージを受けたりとか……『ブルーバレンタイン』てめえの事だよ!!!


さて、ニコラウス・ゲイハルター監督作は『眠れぬ夜の仕事図鑑』が大好きで。

しかも今作は廃墟を撮ったって聞いて、サブカルクソ野郎的にはこれは外せないだろうと。

廃墟とか好きなんですよ。

ちなみに、『いのちの食べかた』は個人的にはイマイチで。

あの、食育としてはどうも恣意的に選ばれた大量生産の現場の撮り方がとても欺瞞だよなあって。

あと、単純に絵面が似たり寄ったりでつまらなかったです(笑)。



そんな『人類遺産』ですが。

結論から申しますと、僕はこの映画が大好きでしてね。

廃墟って、使われなくなってしまった建造物あるいは建造物群のことを指すと思うんですけど。

要するに捨てられてしまった、いらなくなってしまったものなんですね。

近年、特に日本では本作にも登場する軍艦島世界遺産に登録されたこともあり、廃墟を巡る状況もほんの少し変わってきた気もします。

しかしそんな保護を受けられるのは稀なケースで、基本的に廃墟はいつ無くなってもおかしくないものなんです。

昭和の建築物全般が耐震強度の問題や再開発で姿を消す中、廃墟はそもそも使われていない建物なので、消える時はあっという間です。

現に本作に登場する世界中の廃墟のうち、いくつかは撮影後に取り壊されてしまっているそうですし、撮影中に情報を元に現場に行ってみるともう既に無かった(廃墟好きあるある)……なんて切ない状況もあったようです。

だからこそ、世界中の廃墟をこんなにも美しい映像で残してくれた、もうそれだけでこの映画には価値があると思うわけであります。


そして今作は、ゲイハルター監督の前2作(日本公開分)と決定的に違う部分があります。

人物が一切登場せずかつ人間や機械が現場で出す音を一切排除し、代わりに音響コーディネーターにより鳥の鳴き声や虫の羽音が加えられた音響作り。

さらに映像にも照明や加工を足して、廃墟自体がより良く見えるようにされているそうです。

監督本人が「自分はこの映画をドキュメンタリーだとは思っていない」と語る通り、今作は“ありのままの姿”を撮り続けてきた過去作に比べて少しフィクション度が高まっています(勿論ありのままを撮っているかの様に感じられる程度にはナチュラルな作り込みですが)。


今作のテーマを分かりやすく示すものとして「そうして、人類(ホモ・サピエンス)の時代は終わりました。」との煽りがHPなどに記載されています。

ゲイハルター監督は70カ所以上の廃墟を撮ることで人類が滅びた後の世界を表現しており、その世界観を構築するための映像・音響の作り込みなんですね。

僕がこの映画を大好きになった理由は、まさにそこの部分です。

鑑賞中の僕が逐一思っていた事があります。


この世界は人類がいないだけでこんなに美しいのか。


いかにも厭世的な物言いに感じるかもしれませんが(笑)。

僕は観光地なんかに遊びに行っても「ああ……人が多い……人がいない状態でここに来たい……」とよく思ってて。

建築であれ空間であれ、静謐な中でその存在だけを味わいたいのです。

そういう意味でこの映画はまさに夢の様な体験だったと言えるかもしれません。

徹底的に人間の存在が排除された世界は、それが人間の手によって作り出された建築であるにも関わらず、こんなにも美しい。

その美しさに改めて心を打たれました。


この映画の原題“HOMO SAPIENS”は人類を指す学名です。

人類が滅んだ世界を描いた映画に、そのものズバリ人類とタイトルされているのです。

監督のインタビューによれば、解釈は委ねるとしながらも、過去や未来だけでなく現在に対する批判性も、この映画に内包させたかった主旨の発言をしています。

確かに打ち捨てられた建築から過去の営み、滅びた先の未来、そしてそんな過去や未来と繋がっている僕たちの現在が感じられる、素晴らしいタイトルです。

受け手の人生観によって、この映画は過去にも未来にも飛躍し、かつ現在に留まらせる事もできるのです。


そして僕が観た『人類遺産』は素晴らしい未来でした。

人間や機械による喧騒が消え、春夏秋冬が過ぎ行く中、ただあるがままに存在している無数の遺産。

それは人間によって作られた存在が意味を脱ぎ捨てて自然と同質の美しさを獲得した姿です。

不道徳な想像ですが、もしも何らかの事態に自分以外の人類が滅亡したとしたら……。

無数の籠が吊られた炭鉱、神の消えた教会、浜辺のローラーコースター、山頂の巨大ホールまで、僕は喜んで『人類遺産』を闊歩し始めるでしょう。

人類の消えた楽園、その素晴らしさを噛み締めながら。



ドキュメンタリー好きにも、SF好きにもオススメです。

是非ご覧くださいませ。




奥さん、『眠れぬ夜の仕事図鑑』もオススメですぜ。


【映画感想】世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方(2014)

奥さん、ドイツ映画だよ。

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監督は『ツバル』(1999)、『ゲート・トゥ・ヘヴン』(2003)のファイト・ヘルマー。



【あらすじ】

ドイツのど真ん中にあるボラースドルフ。

その村に住む6人の子ども達はアカハナグマのクアッチと一緒にハチャメチャで楽しい日々をおくっていました。

フツーで平凡を美徳とする大人たちは、そんな子どもたちや、彼らと仲良しのちょっと変わった老人たちに手を焼いていました。

ある日そんな村に消費者調査会社“銀色団”がやって来ます。

彼らはフツーで平凡な村人たちをマーケット・リサーチのモニターにしたいと提案、普通で平凡な大人たちは大喜び。

しかし人体実験じみた銀色団のやり方や、モニター村の立場を守ろうとする大人たちの“フツー”の強要に、子どもたち〈ハナグマ・ギャング団〉が立ち上がる!



他に観たい映画があるのに『ラ・ラ・ランド』以外観る気にならない!という病に罹って1週間。

オシャレでハッピーでかわうぃー!な映画で、精神のソフトランディングをしようと観て参りました。

大好きな名演小劇場にて。


そして案の定オシャレでハッピーでかわうぃー映画で良かった!!

てくてくてくてくと仔鴨のように暴れ回る子どもたち!かわうぃー!!

子どもたちを助けながら動き回るハナグマのクアッチ!かわうぃー!!

失敗に落ち込む子どもたちを励まし一緒に楽しい村を作っていく老人たち!ハッピー!!

美術オシャレ!衣装オシャレ!ミュージカルシーンオシャレ!!



一番感心したのは、まるで絵本を読んでいるような脚本・構成でしょうか。

特に終盤、睡眠薬で眠ってしまっていた大人たちが起きてきて、子どもたちと老人たちが作った楽しい“特別な作品”を目の当たりにしていく場面。

6つの作品を順番に見つけていく流れは、劇映画としてはもう少しスマートに見せることもできるのでは?と最初は思いましたが。

しかしあくまで、順番にその“特別な作品”がお披露目されていく構成は、ページをめくり、大きくカラフルな絵を1つずつ見開きで見ていくような絵本の楽しさそのものです。


また、これは好みが分かれる部分かもしれませんが、もっと派手な役割を持たせられなかったのかな?と感じたサブキャラクター達。

マックスのお姉ちゃん、警察官の二名、老人ホーム職員の四名、いずれも一種の敵役です。

彼らは場面場面で登場し、子どもたちに“フツーで平凡”を強要する大人側の人々です。

そんな彼らなんですが、実は子どもたちによって痛い目に遭う場面がほぼ無いのです。

ハチャメチャな子どもたちに逆襲される、言ってしまえば『ホームアローン』的な。

コメディ的にとても美味しい敵役でありながら、彼らにはその見せ場が無いのです。

警察官がパトカーを壊されたくらいでしょうか?(すごく笑った)

これは以前同人で絵本の文を書いた時に思ったのですが、絵本は1ページずつの絵と文の情報量がとても制限された、だからこそ面白い表現方法です。

物語を追う視点も基本的に直線であまり移動はできませんから、サブキャラクターの行動や心情の描きこみには向かない部分があると思います。

敵役たちの役不足な印象は、なるほどやはり“絵本を読んでいるかのような”作りへのこだわりによるものでしょう。

(そういう意味では、わかりやすいスラップスティックコメディを期待すると肩透かしかもしれません。)



もう一つ、メッセージは普遍的で描き方も素晴らしいです。

大人たちはフツーで平凡であろうとする、安定を求めリスクには近寄らない。

しかし子どもたちは自由であります。

パンを空に飛ばしたい。

潜水艦や飛行機に乗りたい。

ゴミを自転車や楽器に変えてみたい。

失敗するリスクなんて気にしないんです。


そしてこの映画の大きな魅力は、失敗した子どもたちを老人たちがサポートすること。

かつて偉業を成した、ちょっと変わった老人たちは純粋で自由な子どもたちの友達です。

子どもたちが行動を起こす決定打になるのも、大好きなおじいちゃん・おばあちゃん達が強制的に老人ホームに入れられてしまったことです。

しかしその後おじいちゃん・おばあちゃんが老人ホームを脱出すると、子どもたちの失敗によって村はメチャクチャ。

子どもたちが描いた設計図を見た6人の老人たちは、協力して皆んながアッと驚くようなものを作ろうと、ションボリする子どもたちを励まします。

この映画の老人たちは子どもたちの友達であると同時に良き師匠でもあるのです。



ちょっと話しはズレますが、昨今のディズニー映画はテーマ性も強く、脚本もキッッッチリ練られています。

大人も子どもも楽しめるエンタメ映画ではあるんですが、一方で工業的・人工的なモノを観ている感じがする人もいるのでは無いでしょうか?

粗がなさ過ぎて可愛げが無いと言うか(笑)。


この『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』は、そういう意味でキッッッチリした映画ではありません。

しかし僕らの人間性を肯定する、優しさ溢れる映画です。

思い出してみて下さい。

フツーだなんてつまらない!

誰もが子どもの頃、胸ときめく設計図を紙に描きとめたのではないでしょうか。

秘密基地を、潜水艦を、飛行機を、機関車を、楽器を、とんでもないマシーンを。


お子さんに楽しい絵本を読み聞かせるように。

また、フツーで平凡なんて望んでなかった子どもの頃を思い出しながら、是非ご覧くださいませ。




奥さん、ハナグマ可愛いよ。




【映画感想】ラ・ラ・ランド(2016)

奥さん、俺的には作品賞だよ!

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原題:LA LA LAND

監督・脚本は『セッション』(2014)のデイミアン・チャゼル。

主演は『ドライヴ』(2011)『ナイスガイズ!』(2016)などのライアン・ゴズリングと、『ゾンビランド』(2009)『マジック・イン・ムーンライト』(2014)などのエマ・ストーン


夢を追う人々が集まる街・ロスアンゼルスを舞台に、愛するジャズの店を開こうとするジャズピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と若き女優志望のミア(エマ・ストーン)が出会い、反発しながらも恋に落ち、互いの夢のために突き進んで行く……といったあらすじ。







注意!

今回の記事にはいつも通りネタバレが含まれている。まだ映画を観ていない者は絶対に見てはならない。いいか。今すぐこのブログを閉じて部屋から出て玄関で靴を履いて車に乗り込み劇場に行き「ラ・ラ・ランドを1枚」と受付に言うんだ。そして観終わった後に、気が向いたら戻ってきてくれ。






ラ・ラ・ランドを観ろ!以上!解散!!






で済ませても良いんですけど……(笑)

こんなに素晴らしい映画を前に、何を語れば良いのでございましょうか。


というわけで、2017年最初にして最大の話題作、ラ・ラ・ランド。

ゴールデングローブ賞で7部門、英国アカデミー賞で5部門、ニューヨーク映画批評家協会作品賞、トロント国際映画祭観客賞などなど受賞、他多数ノミネート。

先日行われた第89回アカデミー賞では、監督賞、主演女優賞、主題歌賞、作曲賞、美術賞、撮影賞の最多6部門を受賞。

さらに前代未聞の作品賞誤発表という、映画本編のある展開を思い起こさせる珍事に巻き込まれた今作。

(シャマラン監督が筋書きを書いたらしいので、まあ仕方ない笑)

まさしく“夢 を み て い た”ってところがまたゾクッとしてしまう。

現実歪んだ?みたいなね。


基本的にこのブログは、いろんな人達に「こんな作品があるんだよ〜暇な時にでも観てみるといいよ〜」とか「この作品覚えてる〜?久しぶりに観てみると面白いよ〜」みたいなスタンスで書いてるんですよ。

でもこのラ・ラ・ランドについては、とにかく僕個人の感情にザックリと刺さってしまって。

そんな軽い感じでオススメ出来ないというか、僕に刺さってしまったポイントを観るより先に教えたら本末転倒というか。

予告を見て「あ、だいたいこんな感じの映画なのね〜ロマンティックで楽しいミュージカル映画〜ステキ〜」って思って劇場に行くとエラい目に遭うという(笑)。

だからもう本当に、そんな感じで、早く皆んなにエラい目に遭って欲しいんだよね。

そういう意味で本当にネタバレは避けた方が良いタイプの映画で。


ちなみに僕はミュージカル映画はほとんど観てないので、オマージュとかそういうポイントについてはパンフレットに書いてありますし、他のもっと詳しい方のブログとかツイートを参考にしてね。

そこを知ってるとさらに味わいが出てくるかも知れないから。


ただ僕はミュージカル映画オマージュは一つも分からなかったし、分からなくっても最高だったので、その辺は気にせずにご覧になると良いとも思うんですけどね。


とここまで書いて、まだ読んでるのはもう観た人だけになりましたかね?(笑)


まず何と言っても音楽です。

アカデミー主題歌賞を受賞した『City of Stars』は勿論、冒頭高速道路のシーンで観客の心を掴む『Another Day of Sun』なんて、楽曲単体でも涙腺を刺激する名スコア。

第二幕の終わりでエマ・ストーンが素晴らしい演技を見せる『Audition (The Fools Who Dream)』なんて、映画の主題を天才的とも思える詞で表現しきっている。

エンドクレジットで流れる『City of Stars (Humming)』は味わい深く、エンドクレジットでまで泣かせに来るなんて……。

他にもエマがルームメイト達と楽しげに歌いだす『Someone In The Crowd』(予告でも流れてましたね)も大好きだし、今作のサウンドトラック盤は2017年必聴の1枚だろう。


撮影賞を受賞しただけあって、ミュージカルシーンの長回しも本当に効果的だ。

鑑賞後にメイキングを見ると「あれマジで一発で撮ってたの!?」と度肝を抜かれる。

派手なシーンだけではなく、前述の『Audition (The Fools Who Dream)』のシーンなど、ある種類型的な静のシーンをあそこまでの見せ場に仕立て上げたのは、エマ・ストーンの演技力だけではないだろう(彼女の演技がウットリするほど素晴らしいのは大前提として、だけど)。


そう、主演二人の演技も冴え渡っていた。

美しい音楽(振り付けも含む)も、効果的な撮影も、エマ・ストーンライアン・ゴズリングの愛おしくなるほどの演技力無しでは全く意味が無かっただろう。

長回しによるミュージカルシーンの掛け合いもさることながら、ライアン・ゴズリングはピアノの猛練習をしてこだわりの強いジャズピアニストになりきっていたし(ジョン・レジェンドの言う通り嫉妬するほどの才能だ)、エマ・ストーンのほんのちょっとした表情の演技こそがこの恋人達の人生を本物だと思わせてくれた。


演技力、さらに音楽や撮影のような一つずつの要素を抜き出して賞賛し出すとキリがない、本当にため息が出るような素晴らしい映画で。

ラ・ラ・ランドを観終わった後、僕はツイッターにこの映画を「アメリカ映画の悦びと、ヨーロッパ映画の味わい深さ」と書いた。

ここまでは個の要素、主にこの映画の“悦び”について書いたわけだけれど、最後にこの映画の“味わい深さ”について書きたい。

(ここから本格的にネタバレになる。)


最初に書いた通り、この映画は宣伝で伝わってくるような甘くロマンティックで楽しいだけの映画では、無い。

劇中出会って心を通わせるも、一年ほどで袂を分かったセバスチャンとミア、そこから時勢は5年後へと飛ぶ。

そこには夢を叶えたミアと、彼女と幸せを共にする家族が登場する。

子どもとじゃれ合うミアの隣にいる伴侶は、セバスチャンでは無い。

冒頭のミュージカルシーン(セバスチャンとミアが出会うシーンだ)で登場した高速道路の渋滞に巻き込まれ、ミアと夫は予定を変更して街で食事をすることにする。

手を組んで歩く二人は、街中で音楽の漏れ聞こえてくるレストランへと入っていく。

するとそこには、恋人時代にミアがセバスチャンに提案した店名とデザインそのままの看板が。

まさかと思いながらも夫に促され店内の席につくミアの前に、演奏していたジャズバンドのメンバーをステージ上で紹介するセバスチャンが現れる。

彼女と別れたセバスチャンもまた、自分のジャズの店を持つという夢を叶えていたのだ。

ミアの視線に気付いたセバスチャンは、おずおずとピアノの前に座り、思い出の曲を弾き始める……。


ここから最後のミュージカルパートへと映画は移行する。

ミアがセバスチャンに声をかけたシーンから始まるそのパートは、映画冒頭から観てきた現実とは少し違っている。

声をかけたミアを無視して立ち去っていたセバスチャンは、彼女を抱きしめてキスをする。

ガラガラで落ち込んだミアの単独舞台は大入り満員、そこにはセバスチャンの姿もある。

袂を分かつキッカケとなったバンドへの参加をセバスチャンは見送り、成功していくミアと幸せな日々を送る。

ありとあらゆるシーンが“こうであって欲しかった”シーンへと書き換えられていく。

しかし、ミュージカルパートの“夢”は終わり、現実へと観客は立ち返る。

セバスチャンは1人でピアノを弾き終え、ミアは夫と共に店を出ようとする。

ミアは立ち止まり、ステージ上のセバスチャンを見やる。

最後に視線を交わした二人は、ほんの少し微笑み合って、この映画は終わりを迎える。


おいいいいいいいいいいいいい!!

なんでだよおおおおおおおおお!!

三幕が始まると徐々にミアとセバスチャンは恋人同士には戻らなかった(戻れなかった)ことが分かってきて、もうその時点で嘘でしょ!?この後二人はまた結ばれるんだよね!?と目の前の現実が受け入れられなくなるわけだ(笑)。

その後始まるミュージカルパートは、そんな観客の心に応えるように美しく楽しくロマンティックそのもの。

しかしそんな“夢”も終わり、映画自体も終わってしまう、なんとも切ない終幕となる。


最初観た時僕は、この“夢”はセバスチャンのものだと思った。

自分が男性だからセバスチャン側に感情移入していたためもあるだろうし、夢を叶えたものの1人でいるセバスチャンが知らない誰かと幸せになったミアと再会したことで、しまい込んでいた、手に入れることのできなかったもう一つの“夢”が溢れてしまう……なんて哀しいんだ。


しかしネットの評で見かけた中に違う解釈があった。

“夢”はミアの“夢”なのだ、と。

夢を叶え、夫と子どもに囲まれて幸せそうに過ごしているミアがセバスチャンと再会したことにより、こうであって欲しかった“夢”を見るシーンなのだと。

そう考えると確かに“夢”の中で、途中から現実の夫との思い出が、まんまセバスチャンに置き換わっていることにも納得できるし、出会いのシーンが書き換えられていることも合点が行く(彼女はあの時すでに恋していたのかも知れない)。

でもそうだとしたらソレはソレで、なんて切ないんだろう。

夢を叶え幸せを手にしたと、少なくともそう見える彼女の本当の願い、本当の“夢”は……書いているだけで泣けてきてしまう。


キャッチコピーの“夢を見ていた”も、映画を観終わってみると全く違う味わいがある。

そう、この映画は“夢”をめぐる物語だ。

現在進行形で夢を見ている人。

かつて、夢を見ていた人。

個人的には、今、夢に迷ったり夢に傷付いている人にこの映画を観て欲しい。

僕はこの映画に勇気を貰った。

かつて夢を分かち合った恋人と再会した時、微笑み合える自分でいたいと思った。

描いた二人の幸せは手に入らなかったけれど、それでも互いに先に進んでいく、そんな姿に憧れを感じた。

描いた“夢”と手に入れた“夢”は違うものかも知れない。

それでも、寂しくてもそれを肯定する微笑みだったと思う。

切なくても、この映画は“味わい深く”、しっかりとハッピーエンドだ。


最後の最後にさらにもう一つ書き加えておくなら、“夢”はもしかしたら“夢”ではないのかも知れない。

パンフレット掲載の町山智浩氏のコラムで引用されるインタビューによると「ただの夢じゃない」と監督は言うのだ。

監督は1927年の映画『第七天国』を例に挙げ、「本当に深い感情は時空も現実も物理法則も超える」ミュージカルも「気持ちが心にあふれた時、天国から90人編成のオーケストラが降りてきて演奏してくれるんだ。」と語る。

そう考えるならあの“夢”は現実だ。

微笑み合って別れた二人も、一緒に幸せになった二人も、どちらも現実なんだろう。



デイミアン・チャゼル、なんて映画を作ったんだ。



奥さん、聴いて。

ラ・ラ・ランド-オリジナル・サウンドトラック

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  • アーティスト: サントラ,ジャスティン・ハーウィッツ feat.エマ・ストーン,ジャスティン・ポール,ジャスティン・ハーウィッツ
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  • 発売日: 2017/02/17
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【読書感想】全部、言っちゃうね。 千眼美子

奥さん、旬な話題だよ。

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全部、言っちゃうね。

本名・清水富美加、今日、出家しまする。

千眼美子 幸福の科学出版


人気若手女優・清水富美加の事実上の芸能界引退、幸福の科学出家宣言から早2週間あまり。

この書籍は2月の11日から14日にかけて、医師の立会いのもとで行われたインタビューを編集したものということで、2月17日に出版されたものです。

また、出家されたことでお名前も千眼美子さんと変わっております。



買ったよ!読んだよ!



最初に申し上げておきますと、僕は清水富美加さんのことをほとんど存じ上げません。

仮面ライダー』も『リアル鬼ごっこ』も『変態仮面』も『まれ』も観てないんですよ。

彼女への思い入れはほぼ無いと言っていいです。

完全なる野次馬であります。

しかし僕自身が芸能に端っこの方で携わる立場でもあり、また個人的に新興宗教ウォッチングも好きな方なので、試しに買って読んでみたわけです。

ただ、実際読んでみて少し思うところもあり、慣れぬ書評を書いてみようかと思った次第です。

もう一つ申し上げておきますが、僕は宗教法人幸福の科学及び株式会社レプロエンタテインメントとは一切関係はありません(笑)。

信者でもありませんし、利害関係もありませんのでよろしくお願いします。

また、清水富美加さんのファンの方や、このタイミングで出版に至った経緯についてなど、ライターのガイガン山崎さんがブログに素晴らしい記事を書かれていますので、良ければチェックされると良いと思います。

http://d.hatena.ne.jp/gigan_yamazaki/20170218/1487428347


前置きを終えまして。

まずこの本は“緊急告白”のコピーが示す通り、有名人による告白本の一つであります。

内容としては、芸能界に入るまでの半生、芸能界で仕事をしてきて感じたこと、そしてご自身と幸福の科学の関わり、最後にこれからの目標などが書かれています。

しかしこの『全部、言っちゃうね。』、実はあまり衝撃的な告白は無いんですよ。


まず宗教関係のことについては、この本が出版される前に諸々報道されていたこともあり、特に驚くようなことはありません。

幼少の思い出や芸能界に入るまでの経緯なども、宗教絡みの部分を除くと、普通のタレントエッセイ本とそう変わらない印象です。

一部話題となった某バンドマンとの倫ならぬ恋もファンの方はご存知だったという話しですし、あとはせいぜい喫煙者だったことくらいでしょうか(どちらもアッケラカンと1行でサラッと書かれてたのが笑えました)。


で、芸能のお仕事をされていて辛かったこと、死んでしまいたいと思いながらお仕事をされていたこと、そしてそこから出家を決意されるまでの流れ、この辺りが一つの見どころになって来るわけですが。

アイドル的な活動に対する嫌悪感、本意で無い仕事をさせられて辛かったなど、どうもネットを見てるとそう言った部分が注目されてしまいがちです。

しかしこの本を通して読む限り、そこの部分は実はそんなに重要では無いです(ファンの方はショックを受けられたかも知れませんが)。


僕が興味深く感じたのは、女優のお仕事について書かれている部分です。

ネタバレになるような書き方は避けますが、彼女は役に入り込むあまり、役柄や作品世界に精神が引っ張られてしまい、不調を来すようになってしまったと読める箇所があります。

これは表現者、特に女優(俳優)さんや歌い手(音楽アーティスト)さんにはよく見られる状態です。

ハリウッド映画なんかでも、強烈な役柄を演じた俳優が奇行に走るような話しがたまに聞かれますよね。

(消費する側でも、作品に強烈な刺激を受けるとその世界観から抜け出せなくなることがあると思います。)

彼女はご家族の方が幸福の科学の信者で(所謂二世)、幼い頃からある種の高い倫理観の中で純粋に育ったことがこの本からは読み取れます。

高い倫理観と同時に、もしかしたら生来の努力家だったのかも知れません。

純粋で役に入り込みすぎてしまう、または作品世界に没入しすぎてしまうというのは、場合によってはとてもしんどいものです。

特に若い頃は良くも悪くも生きている世界が狭いので、自身の高い倫理観とそぐわない世界に深く入り込み続けると、自己嫌悪を引き起こすこともあると思います。

しかもその倫理観がしっかりとした宗教的な教義に根ざしたものだと……そう考えると、投げ出してでも仕事から逃れようとした彼女をとても責められないのではないでしょうか。


ご両親が特定の宗教の信者で、二世として育った友人が、僕にも今まで何人かいました。

その場合人格の形成には、上にも書いた宗教的な教義、高い倫理観が大きく影響を与えていることがほとんどです。

良い悪いは別にして、多く彼ら彼女らは独特な考え方や生き方を持っていますし、そんな彼ら彼女らの考え方、生き方、もっと言えば信仰は誰にも批難できません。

世の中には今回の件で「洗脳だ!」「騙されてるんだ!」と大声で騒ぎ立てる人が沢山いますが、そういうデリカシーの無い真似はやめましょう。

現代日本人は未だに宗教アレルギーが酷すぎます。

また、業界のルールなんて下らないことを言い出す輩は人一人の命を何だと思ってるんでしょうか。

彼奴らの様な連中には人殺し!と石を投げつけてやればいいのです。

何にせよ7年間も死にたいと思い続けた一人の人間が、宗教によって命を救われたことは何より良かったと思います。

鰯の頭も信心から、生きてるだけで丸儲け、です。


清水富美加さんは芸能界を事実上引退されたようですが、この本を読んでいると「もっとこういう作品に出たい!」「こんなバラエティ番組も面白いんじゃないかな?」と、今後は幸福の科学の中で芸能に携わって行きたいという強い思いが書かれています。

生憎幸福の科学が製作した映画を僕は観たことが無いですが、彼女の元気な姿をスクリーンでまた観る機会があるなら、少し楽しみです。


最後に。

この本は、エッセイとしてはあまり質が良くありません(笑)。

時系列は必然性もなくアッチコッチ飛び回りますし、インタビューからの書き起こしを恐らく複数人で行ったためか、章ごとの口調に違和感が出ています。

詩集か!?と思うほど字詰めも余白が多く、そんなに集中したわけでも無いのに2時間で読み終わりました(笑)。

しかし、芸能、宗教、救済、さらに清水富美加=千眼美子さんの生き方や感じ方から、人生みたいなものを考えてみるのもいいのではないでしょうか。



ところで奥さん、虫を食べる話しの意味わかった?(笑)

【映画感想】ラスト・ボーイスカウト(1991)

奥さん、バディムービーだよ。

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監督は『トップガン』『ビバリーヒルズ・コップ2』『アンストッパブル』のトニー・スコット

脚本・製作総指揮は『リーサル・ウェポン』シリーズ、『ロング・キス・グッドナイト』脚本・製作、『アイアンマン3』脚本・監督のシェーン・ブラック


さて何でこのタイミングで『ラスト・ボーイスカウト』なのかと言うとですね。

現在公開中の映画で『ナイスガイズ!』と言う作品がございまして。

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まだ観てないんで内容については何とも言えないんですが、評判は上々みたいです。

で、この映画の監督・脚本(共同)が『ラスト・ボーイスカウト』のシェーン・ブラックさんだそうでしてね。

こう、『ナイスガイズ!』の評判に乗じて旧作を取り上げ、アクセス倍増→仕事が来る→儲かる→田園調布に家が建つという計画でありますの。

うひひひひ。


で、このシェーン・ブラックさん。

皆さん名前に聞き覚えはありませんかねえ。

そうです。

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プレデターのメガネの彼です。

あの、逆さ吊りにされてた。

フィルモグラフィを見ると、役者に監督に製作に脚本と80年代から変わらぬ大活躍っぷりに驚きます。


で、どうも聞いたところによると最新作『ナイスガイズ!』は『ラスト・ボーイスカウト』と内容がほとんど一緒だそうでして。

調べてみればなるほどこのシェーン・ブラックさん、バディムービーを沢山やってるんですな。

勿論一番有名なのはメル・ギブソンダニー・グローヴァー共演の『リーサル・ウェポン』でしょう。

他にジーナ・デイヴィスサミュエル・L・ジャクソン共演の96年『ロング・キス・グッドナイト』。

ロバート・ダウニーJr.とヴァル・キルマー共演の05年『キスキス,バンバン』。

(同じくロバート・ダウニーJr.主演の『アイアンマン3』にはサイドキックのウォーマシン役でドン・チードルが前作に引き続き出演。これもバディムービーの要素を含んでいます。)


どの作品も立場の違う問題を抱えた2人が、絆を深めることで互いの問題を解消して真の相棒になる〜所謂正統派なバディムービーです。

最新作『ナイスガイズ!』ではラッセル・クロウライアン・ゴズリングがコンビを組みます。

では本作『ラスト・ボーイスカウト』のあらすじはと言うと、


警護していた政治家を正義感から殴り飛ばし職を失って落ちぶれた現私立探偵が、賭博問題でスターの座を追われヤク中になってしまった元プロフットボールプレイヤーとコンビを組み、その恋人の死をめぐる陰謀に挑んでいく……


といった感じ。

私立探偵ジョー・ハレンベックをブルース・ウィリス

フットボール選手ジミー・ディックスをデイモン・ウェイアンズ。

チョイ役だけど殺されてしまうジミーの恋人コリー役はハル・ベリーでした。

ブルースも含め全体的にコメディ役者が多い印象だけども、これが結構良い映画なんです。


ボーイスカウト(日本で言うなら委員長みたいな?)のように融通の利かない真面目な倫理観を持ち、そればかりに身を持ち崩したジョー

妻には仕事仲間と不倫され、反抗期の一人娘にもクソッタレ扱いされ、自己嫌悪に陥りながらもがく彼。

一方で不慮の事故で妻子を失い悪事を犯しクスリに逃げてしまったかつての花形選手ジミー。

恋人を失いジョーに協力するうち彼と打ち解けながらも、後悔から立ち直れず攻撃的になる場面も。

過去の過ちに心を絡め取られたままの彼らが、反発しあいつつ他者への思いやりや正義を取り戻していく姿は感動的。

皮肉交じりのジョークの応酬も気が利いてるし、彼らが似た者同士であることがよく伝わり、中盤から徐々に打ち解けていく様子を素直に応援できる。

途中から二人の間を取り持つヘルパーとして登場するジョーの娘も、多少類型的ながら反抗期の多感な娘としてよく出来上がってるキャラだし、彼女がジョーにぬいぐるみ遊びを提案するシーンはブルースの演技も含めてグッとアガる。

シェーン・ブラックの脚本はいつもセリフや設定の伏線が良く効いているためかキャラクターが活き活きしていて、最後まで心地良く観れるのが良いですな。

クライマックスでジョーがジグを踊るシーンは、アクション映画史に残る名場面だと個人的に思うのだが、どうか?


それなりにヘヴィなキャラクター造形ながら、ユーモアあり友情あり大爆発ありスカッと爽やかハッピーなラストを迎えるこの映画。

途中ちょっとだけ冗長になったりするところも含めて「よ!90年代!!」と声をかけたくなる快作です。


しかしまあ昔はよくテレビでも放送してた記憶があるけど、ここんところ観なくなりましたね……。

こういう楽しい“だけ”のあの頃の映画を、また是非たくさん流して欲しいものですが。

忘れられがちなこの1本、『ナイスガイズ!』を観る前でも観た後でも、観比べてみるのはいかがかしら?



しかし奥さん、旦那がクソッタレとは言え不倫相手の男の趣味が悪いよ(笑)。

ラスト・ボーイスカウト [DVD]

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【映画感想】アンドロメダ…(1971)

奥さん、ハードSFだよ。

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監督は『地球の静止する日』(1951)『ウエスト・サイド物語』(1961』のロバート・ワイズ

原作は『ジュラシック・パーク』原作や『ツイスター』脚本のマイケル・クライトン


あらすじは、人工衛星の不時着したニューメキシコ州の田舎町で住民が全滅する事態が発生、現地を調査した科学者達のスペシャルチームは生き残りの赤ん坊とアル中の老人を救出し、秘密研究所で原因と思われる疫病の研究を開始する……。


と、いったもの。

地球外生命体が原因で村民が全滅、調査を開始するという流れはDCコミックスの『リバティ&ジャスティス』を思い出したり、

ハードSFとしては前年公開の映画『地球爆破作戦』(1970)を思い出したり。

地球爆破作戦 [DVD]

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コンピュータの描写などところどころレトロな味わいが今となってはとてもオシャレ。

科学者達による研究・証明の積み重ねの、ドキュメンタリーか!?と錯覚するようなリアルさ。

すわパンデミックかと恐怖を煽る1幕から、科学者たちによる原因究明の第2幕、そこからスムーズに移行する研究所内の汚染と研究所自爆阻止のサスペンスがクライマックスの第3幕。

自爆阻止の前フリがさすがに露骨では?とか、汚染による自爆装置起動と各セクターの隔離が同時に起こるって設計ミスでは?とか、ほんのちょっと間の抜けたところもあるのだけれど。

特に最終的に割りと勝手に感染拡大の危機は回避されるところなど(自爆阻止のサスペンスが外の出来事とはほぼ関係無い)あ、それで良かったの(笑)みたいなほのぼのさが結構ある。


しかしシリアスなテンションと真に迫る設定、SFのビジュアルと、とても魅力的。

好きモノの間では70年代SF映画の傑作とも言われる本作だけど、一般の知名度は高くないと言う。

先に挙げた『リバティ&ジャスティス』など、後のSF・ポップカルチャーに与えた影響も大きい(らしい)一作なので、ぜひ一度観ていただきたい。




奥さん、血液サラサラってそういう意味じゃないよ。

アンドロメダ・・・ [DVD]

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【映画感想】マグニフィセント・セブン(2016)

今日は日本で現在公開中のこの1本。

奥さん、西部劇だよ!

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監督は『エンド・オブ・ホワイトハウス』『イコライザー』のアントワーン・フークア

黒澤明監督『七人の侍』(1954)を原案に制作された西部劇『荒野の七人(原題:The Magnificent Seven)』(1960)のリメイク(ややこしい)。


まあ黒澤明作品観てないんで、そこはさらーっと流しますが。

しかしこの西部劇という厄介な代物。

正直僕、西部劇あんまりちゃんと観てないんですよ。

覚えてる限りで


荒野の用心棒(1964):セルジオ・レオーネ監督。マカロニ・ウェスタンの代表作。

エル・トポ(1970):アレサンドロ・ホドロフスキー監督。カルト映画の代名詞。

スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ(2007):三池崇史監督。察して。


……まともな西部劇が無えよ!!!

思い返してみると、現代劇の『ラストスタンド』(2013)が実は一番正調西部劇だよな〜とか。

あとOVA機動戦士SDガンダム パパルの暁 第103話スギナムの花嫁』はかなり西部劇ですね。やっぱり変わり種かよ!!!

ってわけで、流石に文脈分からなすぎでまずいと思い、オリジナル『荒野の七人』はDVDで観て予習しましたです。

ちなみに『荒野の七人』めっちゃ面白かった。



さて『マグニフィセント・セブン』。

金鉱目当てに地上げを図り、村を蹂躙し悪逆の限りを尽くすボーグ社のバーソロミュー・ボーグ(クソ野郎)。

目の前で旦那を殺されたエマ・カレンは、街でガンマンを探していたところ、凄腕の賞金稼ぎサム・チザムと出会い彼に村を救ってくれるよう頼む。

話しを聞いたサム・チザムは村を救うため腕きき達を集め打倒ボーグに乗り出すのだった……!!というのがあらすじ。


オリジナルだと野盗であった悪役は成金のクソ野郎(笑)に変わり、そんなクソ野郎と用心棒の一味を、正義に燃える7人がMINAGOROSHI!

なんとも西部劇らしい、勧善懲悪待ってました!の素晴らしいプロットだ。


しかし今作の白眉は、集結する7人の多様なキャラクター。

ざっと紹介してみよう。


サム・チザム

デンゼル・ワシントン個人的には『ボーン・コレクター』の人。

7つの州の委任執行官で、賞金稼ぎの黒人。

オリジナルのクリスに相当するリーダー格のキャラクターで、元北軍将校。


ファラデー

演ずるは僕らのクリス・プラット

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『ジュラシックワールド』の人。

元のヴィンに相当する軽妙なキャラクターで、2丁拳銃がかっこいいぜ!

アイルランド系の設定はベルナルド・オライリーから受け継いでいるのかも。


ヴァスケス

マヌエル・ガルシア=ルルフォ。

賞金首のメキシコ人。こちらも人種の設定は元のベルナルド・オライリーから(オライリーアイルランド人とメキシコ人の混血)受け継いでいるのかしらね。


グッドナイト・ロビショー

イーサン・ホーク演ずるフランス系白人の賞金稼ぎ。

元南軍兵士で狙撃の達人、通称“死の天使”。何それかっこいい!!

ビリーの相棒で、詩的な表現を交えて話す。何それかっこいい!!

オリジナルのハリーとリーを整理して掛け合わせたようなキャラクター。


ビリー

イ・ビョンホンイ・ビョンホン!!

オリジナルのブリットに相当する。

東洋系ガンマンで凄腕ナイフ使い!!

ロビショーとコンビを組み、トラウマに悩まされる彼をサポート!!

お前らだけキャラが立ちすぎだよ!!


ホーン

ラン・オールナイト』『ジュラシックワールド』のヴィンセント・ドノフリオ

巨漢のマウンテンマンで、聖書を諳んじ斧やナイフでの近接戦もお手の物。

クロウ族300人を仕留めたって凄えな。

本作オリジナルのキャラクター。


ハーベスト

演ずるはただいま全米公開中の『Wind River』にも出演しているマーティン・センズメアー。

放浪のネイティヴ・アメリカンで、弓矢や手斧を用いる戦士。

こちらも本作オリジナルキャラクター。


この映画は“多様性”をテーマにしているとあちこちで多くの皆さんがおっしゃられていますが、まさしくその通り。

七人のキャラクターを見てもらえれば一目瞭然、元に比べて圧倒的に多様な人種、そして当時のアメリカにおける彼らの多様な関係性を描いている。

そしてそれこそがアメリカの理想的“多様性”であり、2016〜2017年、トランプ大統領とレイシズム蔓延る現在のアメリカだからこそ、描くに足るテーマだと心から思う。

元北軍のチザムと元南軍のロビショーの過去。

賞金首のヴァスケスをスカウトするチザムとのやり取り。

それに呼応するかつて追う側追われる側であったロビショーとビリーの現在。

ファラデーとヴァスケスの軽口の応酬。

敬虔なホーンの仲間たちへのセリフ。

そのホーンとハーベストの敵側インディアンと対する一連のシーン。

アイデンティティの違いを越え絆を結び、命を賭して巨悪に立ち向かう。

金に物を言わせ人々を虐げる成金クソ野郎(現アメリカにおいて誰のことかは言わずもがな)をアメリカ的“多様性”の絆が打ち倒す!!

まさしく西部劇!まさしくアメリカ映画!!


(しかし、春に『ズートピア』秋に『マグニフィセント・セブン』が公開された2016年のアメリカが、どれだけ理想と現実の狭間で揺れていたのかがわかる気がするね……。)

(ちなみに前述した『ラストスタンド』もオーストリアからの移民であるシュワを始めとした多様なメンバーで脱獄したギャングのボスをやっつけるというあらすじ、現代西部劇はかつてのアメリカの理想を描くもってこいのジャンルなのかなーとか思ったり。)


話しを『マグニフィセント・セブン』に戻そうそうしよう。

登場人物の豊かさとテーマ性の増大、オリジナルの要素の整理も見事で、脚本もスッキリしたと思える今作。

しかし少し残念だったのは、オリジナルにあったオライリーと子供たちのサブストーリーと、チコと村娘の恋愛要素がバッサリ無くなってること。

ただオライリーのサブストーリーを描写してしまうと、軸になる“多様性”のテーマがちょっとボヤけるから、まあ止むなしかなあという気はする。

しかし恋愛要素の方は入れても良かったんじゃないかなあと思うのだ。

理由としては、実は今作の難点にテンポが良すぎることがあると思う。

オリジナルだと中盤丹念に描かれていた、村人の訓練シーンとそれに関わる七人のやり取りが、今作では割とあっさりしている。

村人たちとのやり取りによって七人のバックボーンや問題、もっと言えば時間的な経過を描く大事なシークエンスだと思うのだが。

村人たちの成長も、サムに集められただけのメンバーが認め合うに至る流れも、あまり描かれることも無いまま、戦闘シーンに突入していってしまう印象だ。

(その代わり鉱山に残っていた手下たちを一掃して労働者を解放し、ダイナマイトを手に入れるちょっとした見せ場があるんだけどね。)

少し思い出したのは昨年公開の『ローグ・ワン/スターウォーズストーリー』において、ローグ中隊の面々が終盤あそこまで作戦に入れ込む理由が分かりにくいといった意見があった事だ。

やはりローグ・ワンでもテンポを重視した結果、キャラクター達のやり取りを充分に描ききれていなかったような印象はあった。

その結果、クライマックスで自己犠牲を払う中隊の面々への感情移入が進まず、少し物足りなく感じてしまった人がそれなりにいたのだろう。

正直僕は今作でも同じ問題が起こってしまっていると思うのだけど、これまた昨今の風潮なんだろうか。



というわけで良いも悪いも併せて書いてみた。

総合的にはとても好きな映画なので、是非とも皆さんご覧いただきたい。

どうやら劇場にはあまり人が入っていないようで……しかし上に書いた通り、2016〜2017年の現在にこそ観るべきテーマがしっかりと描かれている映画なんです。

ごく個人的にはロビショーとビリーの2人だけでも大いに観る価値がある(笑)映画なので、何卒よろしく。




最後に。

奥さん、荒野の七人のテーマはテレビでも使い尽くされてるのに全く色あせない名スコアで、しかも日本版のサントラにはボーナスで収録されてるんですよ。